
<シーン1;さらばハマー>
早朝、ロサンゼルス空港近くのレンタカー屋で、ハマーにお別れをした。
短いながらも、ともに旅した道連れである。
胸がつまる。
禁煙車というのに、さんざタバコを喫ったから、最後にファブリーズを惜しみなくふりかけてあげた。
液体は飛行機へ持ち込めないので、残りは座席のポケットにプレゼント。
さらば、赤いハマー。
<シーン2;最後の英会話>
ロサンゼルス発、成田ゆきのユナイテッド航空機内。
あと数時間で、成田空港到着というところで、客室乗務員が飲み物をサーブしはじめた。
コーヒーはタバコがほしくなるし、酒の気分でもない。
ちょとリフレッシュしたいと思ったので
「コークプリーズ」
と、コーラをお願いすることにした。
アメリカにいるあいだ、ずっと英語を使って、意志を伝えながら旅をしてきた。
もちろん、おおかたはGによる通訳付きではあるけれど。
簡単な英会話くらいなら、なんとかなるもんなんや。
と、自分に感心もしていた。
それゆえ、自信満々の「コークプリーズ」。
この旅、最後の英会話かもしれない。などと、
感慨深げにプラカップを、客室乗務員から受け取った。
さて、プラカップの中、黒色の液体からピチピチと炭酸がはじけて、、、、、
いない!
液体はなんと、無色透明!
もちろん、文句をゆって、取り替えてもらうほどの英会話スキルは、持ち合わせていない。
例によって、流れ作業の搭乗手続き、及び
客室乗務員の雑な扱いのせいで、オレは家畜に成り果ててしまっている。
(2008.04.17その2参照)
途方に暮れ、おそるおそる口にふくんでみることにした。
ひとくち。
無味無臭である。
まったくクセのないクリアな味わい。
もうひとくち。
何をかくそう。
まごうことなき純粋な"水"であった。
幸せそうに、氷が浮かんでいる。
ああ、たぶん「コールドウォーター」と聞き間違えられたのであろう。
うらめしや客室乗務員とふり返ると、はるか機体後方の乗客に飲み物をサービスしていた。
この旅、最後の英会話は無惨な敗北を喫した。
ウォーターは、"藁(わら)”と発音するんだと、ジョンR.S.が話していたのを思い出す。
<シーン3;成田国際空港>
帰国到着の手続きは、係員が日本語を話せるから何の問題もない。
久しぶりに見るジャパニーズの群れ。
飛行機の搭乗にかかわるすべてから解放され、ターミナルビル屋上。
見渡せば、夕なずむ空港。
このおぼろげに霞む色、音、空気の肌触り。
まさしく日本である。
アメリカ滞在中に、季節が移っていたらしい。
桜の花が満開である。
鼻の奥、アメリカ独特の匂いがまだ離れないので、不思議な感覚で、春の日本を眺めた。
日本のアメリカナイズ、欧米化ということが云われて久しい。
もしかすると日本は、他国の"文化的植民地"なのか、と悲観することさえある。
しかし、この、はじめての海外体験ではっきり自覚した。
ただ外国の様式をなぞったくらいで、根源的な日本的情緒や日本人の嗜好は、変わらない。
逆もまたしかり。
たぶん気候や風土こそが、その土地に住む人々の文化を形成しているのである。
匂いや味はもちろん、色や形、音でさえも、気候風土が違えば変化してしまう。
はじめての海外で、感覚が異様に敏感であったのかもしれない。
または、思い込みに拍車がかかっていたのかもしれない。
だとしても構わない。
アメリカ生まれの古臭いロックンロールに恋した日本人が、
どう音楽と向き合うべきか、何かがわかりかけた気がする。
滑走路の彼方、
霞がたなびくように、桜が咲いている。
おわり


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